とある病気のセルフチェックについて思うこと
【これは2019年の夏から秋頃に書かれた文章です。】
職業柄、コンテンツの企画を作るようなことを
数多くやってきたが、
セルフチェック、というコンテンツは
あんまり気にしていなかった。
今まで口角炎だったりインフルエンザだったり、
なんとなく病名を察せるものしか
罹患してこなかったから、
あまり必要性を感じてこなかったからだ。
その意味で、
正解がなんとなくわかっている病気に対して、
セルフチェックのようなコンテンツは答え合わせのような作用をする。
「……そりゃそうだな」となるのみで、
あまり有益だとは思わなかった。
セルフチェックを受けたよ、という話が趣旨の今回。
なんのセルフチェックを受けたか。
そう、「うつ病」である。
現代病の最たるもののひとつ、
精神病の類いである。
これに関しては「まさか」という感じで実施した。
ちなみに、下記URLがそのセルフチェックだ。
https://utsu.ne.jp/self_check/
運営は塩野義製薬と日本イーライ・リリーが行なっている、きちんとしたサイトだ。*1
質問項目を見ると、
「身体がだるく疲れやすいですか?」とか、
「騒音が気になりますか?」とか、
それっぽいことを聞かれる。
………やっべぇ…。
質問を答えながら、役が揃っていくのを感じる*2。
ヒヤヒヤしながら答えると結果は…
ほう!傾向がありそうと。
まぁ、なってしまっているわけではないけど、
早期治療というか、辛かったら受診してね、ときた。
さて、このコンテンツ、いち生活者として
めちゃくちゃ自分には刺さった。
うつ病という文字面のパワーと、
でも意外なことに、なんとも言えない安心感があった。
…ここ1-2ヶ月のとてつもない怠さと虚無感に
ちょっとした名前がついたようで。
なんというか、人間として当たり前の感覚だよ、と
背中を押してもらっているような、そんな感じだ。
とはいえ、
ここは是非セルフチェックを受けて欲しいが、
多くの自分に近い年齢の人が当てはまってしまうような内容ばかりだ。
恐らく、じゃあやってみよう、とトライしてみて、
予想外に「うつ病の傾向あり」と出る人はたくさんいるはず。
うつ病ってきっとありふれている病気なのだろう。
セルフチェックは自分にそんなことを気付かせてくれた。
とてもいいコンテンツだと思う。
ただの疲れ、仕事の甘え、力量不足…
そうとも限らないのに無理に自分自身に引き込んでしまって、
より深いところへ落ちてしまうくらいなら、
いっそ、この倦怠感に名前をつけてしまった方が楽かもしれない。
めちゃくちゃ余談だが、昔、ガーナという西アフリカの国にある、「レッドブル・ガーナ」という施設のドキュメンタリーを観た。
様々なスポーツに投資する世界的な飲料メーカーのレッドブルはサッカーチームも運営しており、
南野がいるレッドブル・ザルツブルク*3や、
ドイツ1部ブンデスリーガの強豪の一つになった
レッドブル・ライプツィヒなどがレッドブル・グループの一員だ。
「レッドブル・ガーナ」の目的はアフリカの優秀な人材を集め、ヨーロッパで活躍させるため、
サッカーはもちろん、ドイツ語やその他教育を受けさせる場として整備された。
ガーナの人々はドイツやオーストリアの人と違い、
非常に低い物価で働いている。
ガーナの若者1人がこれらの国でプロとして成功すれば、仕送りで家族が裕福な暮らしができるのだ。
レッドブル・ドリームである。
もちろん、プロになるには沢山のセレクションに受からないといけない。
家族の期待を背負って、自分の「フットボールドリーム」を背負って、
それでも落ちたガーナの若者が
「神様が今ではないと言った」と言えてしまう。
どうしようもないことをただ神に委ねる、
神のみぞ知るを体現する在り方を見た。*4
でも、これは身勝手かもしれないけれど、
メンタル的にはとっても健康なことである。
一種の諦めも大事であり、謙虚さ、あるいは勇気を神は我々に都合よく与えてくれる。
わかりやすいお金や権力ではなく、精神面での後ろ盾としての神ならば、そう有害なものではないだろう。
なのでメンヘラとか、存在証明を他者に委ねるような自身のない人はみんな宗教に救いを求めるのがいいのでは、と心の中で思っている。
こんなこと、世間ではほぼ言わないが、救いになるならそれでいいし、誰かの迷惑もかけないし、神様って応えもしなければ裏切りもしないから。
身勝手に拠り所にしてやるのが人間たちの神様に対する正しい在り方なんじゃないの。
…と、僕はうつ病ではないけれど、
どうやらその入り口にいるらしい。
重症ではないことはわかっているし、
騒がれるようなことではないけれど、
この事実は自分にとって悲しくて、
誰かを悲しませる要素に溢れている。
でも、唯ぼんやりとした不安*5に殺されるくらいなら、
ちゃんと直視したほうがいいと思う。
そんなことを深夜なので考えている。
*1:非常に細かい話をすると、このサイトは塩野義製薬と日本イーライ・リリーの共同出資で運営されているようだが、このような症状ごとの専門的なサイトは、企業がオウンドメディアのような形で運用していることが多い。
海外と異なり、日本は薬機法(「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」が正式な名前。薬品や化粧品、健康食品など、身体に良さそうなもののあれこれを包括的に定めている法律。今回はその中の広告規則(66条)が該当する。)の関係で、薬そのものを広告することはできない。
ただ、塩野義製薬は「SAGE-217」日本イーライ・リリーは「サインバルタ」という抗うつ剤を展開しており、「うつ病かな?」と思った患者に対して来院を促進し、両2製薬会社の抗うつ剤を処方され、製薬会社は儲かる、という仕組みだ。
このような座組みは特定の疾患に対してシェアを独占することが多い製薬会社特有の状況だろう。
製薬会社の儲けのため、というと気分が悪いかもしれないが、我々生活者はよくわからないメディアのニセ医学情報よりも、製薬会社のきちんとした(とされる)情報の方が遥かに有益なので、社会的にもいいことだと私は思っている。
*2:そもそもセルフチェックを受けるべく「うつ病」とかで検索をかけてる時点でもう既に結構病んでるけどね
*3:2020年1月にリヴァプールに移籍した。ちなみに、チームメイトのサディオ・マネやナビ・ケイタもこのチームの出身。
*4:ちなみに、このレッドブル・ガーナは全く上手くいかず、2014年にフェイエノールトのアカデミーに吸収され、消滅した。
*5:芥川龍之介「或旧友へ送る手記」---君は新聞の三面記事などに生活難とか、病苦とか、或は又精神的苦痛とか、いろいろの自殺の動機を発見するであらう。しかし僕の経験によれば、それは動機の全部ではない。のみならず大抵は動機に至る道程を示してゐるだけである。自殺者は大抵レニエの描いたやうに何の為に自殺するかを知らないであらう。それは我々の行為するやうに複雑な動機を含んでゐる。が、少くとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である。--- その後、芥川は薬物自殺を遂げた。